海の向こうの風景

地平の更にその海の向こうに生きて来た日々

海の外に憧れ、そこにひたすら生きて来た。五大陸、四十数ヶ国に旅し、途中、サウジアラビアと米国に約八年間住み着いたものの、年月を重ねると望郷の念、止み難し。その四十有余年を振り返り長い旅を終えることとした。

中世王権社会に暮らす密かな喜び(4)リヤド徒然記 1994.01.27記

<1994年サウジアラビア駐在時の随想を原文のまま転載>

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 過去へのタイムマシンに乗りたければサウジアラビアへ来い、未来のタイムマシンは東京にある、と常々考えている。

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サウジアラビア王(初代、第7代)

 この両極端を行き来する自分がSF小説の主人公の一端を演じることもサウジアラビアにいれば不可能ではない。ここに暮らし、物質的利便性を抜きにして考えた場合、中世王権社会とはこのようなものではなかったかと歴史研究に余念がない。

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ジェッダ旧市街(世界遺産

 サウド王家を支え監視するリヤド政治部族。したたかに生きるジェッダ商人。今に見ておれ東部反体制派。宗教権威のワッハーブ派。これらが水面下で利権を求めて暗闘している図は想像を掻き立てられて心も弾む。西欧民主主義も糞もあったものではない。そんなものはイスラム文化の栄光の成れの果て。ここが分かってくると実に面白い。

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東部(アルコバール)

 西欧に時代を例えれば、宗教改革間近の腐敗しきった神聖ローマ帝国ローマカトリック教会ローマ教皇)。日本に時代を例えれば驚天動地の元寇前夜の鎌倉幕府。居ながらにしてその疑似世界が楽しめる。

 

 王族の利権に絡む横暴、思わず唸ってしまうストーリー展開。生産という人類に不可欠の行為が全く欠落し、大衆からの遊離も甚だしい宗教界のアナクロニズム、実にいい。イスラム暦で月日が巡り、アラビア数字がそこここに使われ、集会の禁止、言論統制、法の恣意性、等々、嬉しくなるほどに、ほら、中世がそこにある。

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アラビア数字(ナンバープレート)

 我々日本人は賓客待遇でこの光景を楽しむことが出来ることを幸せと思わねばならない。インド、バングラデシュパキスタン労働者はそうはいかない。なにしろ彼らは、悪しきスポンサー制度の下、囚われれの身となったも同然の農奴の如きの身分に甘んじているからである。

 

 意味ありげに笑みをたたえたサウジアラビア人に、南アジアからと思しき婦女の、売られるように連れ去られていく、空港における淡々とした情景に奴隷売買の再現を思う(”鬼が曳く”(1)~(3)で詳述表現した)。

 

 私たちはまさに中世王権社会にパックツアーをさせてもらっている訳だ。このツアーはこれからもっともっと価値が出てくる。皆様には、思い切って駐在期間を延ばすことをお勧めしたい。

 

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ジェッダ光景

(パックツアーアラビアンナイト

 

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  • サウジアラビア(1932年建国)という国名は「サウド家のアラビア」という意味である。サウド家アラビア半島の中央部に起こった。西の紅海に面するジェッダは古くから栄えた交易都市であり、サウジアラビアにあっては比較的開放的な土地柄である。イスラム創始者モハメッドも元はジェッダ商人である。サウド王家が守護者である聖地メッカやメディアへの巡礼者はまずはここに到着する。
  • サウジアラビアで外国人が働く場合、サウジアラビア企業とのスポンサー契約が必要になる。保護者であり身分保証されるという訳である。但し、パスポートを預けねばならない為、出国も自由にならないことになる。これは労働者にとっては”搾取と逃亡”という問題にも繋がってくる。
  • 東のアラビア湾に面するアルコバールやダーランは大油田地帯であるが、シーア派が多いということもあり、サウド王家に対しては距離を置く。何より地元に産する石油からの収入を取り上げられている不満が大きい。
  • 今思えば懐かしい時代である。1990年代の日本はバブル崩壊後の失われた10年と言われるようになるが、まだまだ社会の活力は残っていたし、世界でも経済大国の名は失ってはいなかった。
  • アニメ業界では「美少女戦士セーラームーン」が大ブームとなり、スポーツ界ではJリーグが発足、野茂が大リーグに挑戦した。横浜ランドマークタワーが竣工し関西空港が開港した。
  • 大災害も発生した。阪神・淡路大震災である。丁度、筆者の帰国辞令が出る日であったが本社のある関西圏のインフラが崩壊、しばらくは辞令が届くことはなかった。